検索

明日への希望 ― ご挨拶に代えて

 さる3月11日に発生した、想像を絶する東日本大震災により亡くなられた方々に対し、衷心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災された多くの方々にも、併せてお見舞い申し上げます。同時に原発事故による電力不足、放射性物質の放出等、憂うべき日々が続くなか申し上げます。

 オーストラリア、クィーンズランド州商工会議所は、震災下における日本人の振る舞いを讃え、「静けさ」「能力」「優しさ」「秩序」「思いやり」「犠牲的な行為」など10の言葉を私に送ってくれました。私たちもまた、未曾有の困難のなか、それに耐え、ひたむきに生きようとする被災者、そして支援者の姿に心からの感動と共感をおぼえるとともに、忘れかけていた本当の優しさと強さに気付かされたのではないでしょうか。日本人には古来より自然を受け入れ、自然とともに歩んできた歴史があります。「大津波で全てを失ったけれど、海に依って生活してきたから海を憎む気持にはなれない」と或る被災者の方が話されていました。このたびの大震災は、先の大戦に続く甚大な被害をもたらし、震災から1ヵ月を経た今なお、復旧復興への道は見えていません。

 私たちが直島でアート活動を始めたのは二十数年前になります。以来、高齢化、過疎化で悩む瀬戸内海の島々の自然や固有の文化、歴史を生かしつつ、建築、現代アートが融和した都会には無い現代の楽園としてのアートサイトづくりを島の人々と共に行ってきました。昨年、7つの島と高松を舞台とした「瀬戸内国際芸術祭2010」には世界中から93万人もの方々にお越しいただき、フランスを代表するアート誌では、我々のこうした活動を「直島メソッド」として評していただきました。また、来場者の9割以上の方々が、再度ぜひ訪れたいと言われています。戦後の高度経済成長期以降に育った若者も、日本の原風景と現代アートとの融合、そして素朴で親切な島の人々との触れ合いにより、一人の人間として、直感的に本質的な何かを感じられたのかもしれません。

 芸術祭では被災地となった宮城県、福島県などから、観光客としてだけでなく芸術祭を支えるボランティアサポーター「こえび隊」としても多くの方が参加され、住民の方々とともに芸術祭を成功に導いてくれました。私たちは被災地の一日も早い復興を祈念し、ベネッセホールディングス・直島福武美術館財団として復興支援を、また救援物資として直島コメづくりプロジェクトでの収穫米を送らせていただきました。さらに芸術祭実行委員会では、現在でも多くの方々が厳しい避難生活を余儀なくされていることを受け、瀬戸内の島々の空き家の提供、「こえび隊」のネットワークを生かしながら被災地への人材派遣などを行っていく予定です。

 私たちは震災支援活動に長期的に取り組んでいくとともに、これまで継続してきた瀬戸内でのアート活動を通じて「本当の豊かさとは何か」を世界に向けて発信してまいります。そして何よりも被災地の一日も早い復興を祈念するとともに、この国の原風景、世界から称賛をいただいた心が今なお残る島々にお越しいただき、近代化、都市化の流れの中で私たちが失いかけている何かを取り戻していただきたい、と心から願っています。