日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念事業
デンマークにて行われた「自然、アート、建築による地域振興」をテーマとしたシンポジウムにてベネッセアートサイト直島の活動を紹介

日本がデンマークと修好通商航海条約を締結した1867年から150年を迎える今年、両国の皇太子が名誉総裁となられ、両国で様々な記念行事が行われています。その一環として、先日デンマークにて行われたシンポジウムにて、ベネッセアートサイト直島の瀬戸内海の島々での30年に渡る活動を紹介する講演およびディスカッションを行いました。デンマーク文化庁、デンマーク芸術財団、デンマーク王立芸術アカデミー(建築・デザイン・保存学部)、オーフス建築大学が共同で主催したこのシンポジウムは、「自然、アート、建築による地域振興」をテーマに、ベネッセアートサイト直島という具体的なモデルからどのようなことが学べるかを明らかにした上で、地域づくりについて未来のシナリオを模索しようとするものです。

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6月7日(火)、デンマーク王立芸術アカデミーシンポジウムでのキム・ヘルフォルト・ニールセン氏(デンマーク文化財団・建築コミッティ―会長)の歓迎の挨拶の様子

6月6日(火)、コペンハーゲンのデンマーク王立芸術アカデミーにて行われたシンポジウムは、デンマークの著名建築家、アーティスト、都市計画関係者、政治家、主要財団代表者などを含む150名のゲストを招いて実施されました。冒頭に基調講演を行ったベネッセアートサイト直島代表 福武總一郎は、活気のある地域社会を育む重要性と、そのビジョンを瀬戸内海の島々で実現するに際して、アートや建築が果たす役割を改めて強調。ベネッセアートサイト直島という場所が形づくられてきた経緯や、そこに通底する思想、考えるうえで大切にすべきコンテクスト等を紹介しました。

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司会のケント・マーティーヌスン氏(デンマーク建築センターCEO)の質問に答える福武總一郎(ベネッセアートサイト直島代表)
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「直島メソッド」を解説するスライドの写真におさめるシンポジウム参加者

続いて、ベネッセアートサイト直島に関わりの深い3名のアーティスト・建築家が登壇。最初に登壇したアーティスト・大竹伸朗氏は、過去25年に渡って、直島、女木島、豊島で制作してきた作品について、制作当時の思い出を話しながら、島への思い、島の方々との交流、さらにその地域のコンテクストがいかに自身の想像力を刺激したかを語り、「既にそこにあるもの」を最大限に生かすという考え方が長年に渡り自身の思考や制作過程に大きな影響を与えてきたことを話しました。

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直島銭湯「I♥湯」の制作に至ったプロセスを語る大竹伸朗氏

次に登壇した建築家・三分一博志氏は、"動く素材(風、水、太陽)"という氏のコンセプトに焦点を当てながら、犬島精錬所美術館の建設に至るまで数年に渡って周囲の風や太陽の動きを調査したことや、直島の集落が備えてきた古の知恵や地域特性を生かした建築の在り方を提唱した「The Naoshima Plan」などのプロジェクトを紹介。過去数世紀に渡ってその地域に育まれてきた知恵から授かったものを、建築という行為を通して次代に伝えていきたい、と語りました。

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「The Naoshima Plan」実現にあたり、数年間に及んだ調査について説明する三分一博志氏

そして、最後に建築家・妹島和世氏が登壇。SANAAや西沢立衛氏の設計した建築も含め、直島、豊島、犬島における建築物を紹介。中でも犬島では、島全体を一つの建築として捉えながら、犬島「家プロジェクト」「犬島 くらしの植物園」、さらには今後の計画を通し、長い期間をかけて犬島のランドスケープを形づくっていくことに取り組んでいると説明。人々がさまざまなかたちで地域に関わることで、その地域、あるいは社会に貢献できるということに気が付き、これらのプロジェクトがそのきっかけ作りになればよいと考えるようになった、などと述べました。

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これまでに携わってきたプロジェクトについて説明する妹島和世氏

午後はデンマーク側から、建築家・ビャルケ・インゲルス氏と、昨年秋より犬島「家プロジェクト」I邸にて自身の作品「Self-loop」を公開している、アーティストのオラファー・エリアソン氏のプレゼンテーション、そしてデンマーク国内の主要財団代表者によるケース スタディなど、デンマークからの事例紹介に移りました。

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アートを通じた参加型のコミュニティ形成の可能性について話す、オラファー・エリアソン氏

続いて、デンマークからの参加者を招いたラウンド テーブル ディスカッションが行われ、デンマークにおいてどのように地域振興を実践していくべきか、その方法論が模索されます。

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ラウンド テーブル ディスカッションでの様子

今年初めに直島を訪れたデンマーク文化大臣のメテ・ボック氏は、ベネッセアートサイト直島で実現されている自然、アート、建築による地域振興の事例は、自国デンマークにとってもよい刺激となるはずだと強調し、ディスカッションを締め括りました。

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ラウンド テーブル ディスカッションを締め括ったデンマーク文化大臣のメテ・ボック氏

翌日は、デンマーク第二の都市であり、今年「欧州文化首都」の1つにも指定されたオーフスにて、一般の方々も広く対象とした講演会を実施。前日に引き続き日本からのプレゼンターのほか、デンマークのアーティスト・ソーレン・ターニン氏、建築家・ポウル・ホイルンとクリスティン・ジェンセン氏ほか、デンマーク国内の財団関係者によるプレゼンテーションが行われ、その後の討論会には一般の方々も多く参加されました。

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6月7日(水)、オーフス建築大学でのシンポジウムの様子

シンポジウムと並行して、現在オーフスでは第1回ARoSトリエンナーレが開催されており、またコペンハーゲンでは、三分一氏の展覧会が2か所で行われています。1つはデンマーク建築センターにて、直島や犬島の三分一建築も紹介するもの、もう1つはコペンハーゲン・フレデリクスベア区域のシステアナ美術館でのインスタレーションです。

システアナ美術館は地下の貯水施設を利用したもので、6月18日(日)には日本から皇太子様も訪問されました。

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システアナ美術館での三分一氏のインスタレーション「水」
(写真:Jens Markus Lindhe)

今回、2日間かけて行われたシンポジウムは、デンマーク文化庁をはじめとする政府、建築、アート、財団の各関係者と、ベネッセアートサイト直島との関係性を深める良い機会となりました。今年10月には、今度はデンマークの代表団をベネッセアートサイト直島の島々にお招きし、シンポジウムなど実施する予定です。その際の様子も、またブログで詳しくレポートしていきます。

(シンポジウム写真:Zevegraf - Oscar Haumann)

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