半田真規《無題(C邸の花)》
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は犬島「家プロジェクト」C邸で公開されている、半田真規の作品《無題(C邸の花)》の制作プロセスをご紹介します。
2019年に公開された《無題(C邸の花)》は、かつて集会所であった「C邸」に大きな木彫がひっそりと置かれている作品です。犬島に生きる人々から発せられるエネルギーにインスピレーションを得ており、薄暗い建物内とは対照的に鮮やかな木彫からは生気が感じられます。
半田はこれまで、展示場所のコンテクストに合わせてさまざまな技法を用いて制作してきました。犬島においても適した表現方法を考え、初めて木彫を手掛けることに挑み、試行錯誤を重ねながらも犬島の要素を取り込んだサイトスペシフィック性の高い作品を完成させました。
半田は2017年11月に初めて犬島を訪れ、犬島の歴史や風土についての調査を開始しました。季節を変えて何度も足を運んでは島内をくまなく散策し、島の方々へのヒアリングも行いました。犬島の今昔や暮らしぶりに始まり、島の方々の人となりなど、たわいもないような会話から犬島に対する解像度が上がっていきました。
調査を経て、半田は「花」をモチーフにした木彫作品へと構想を固めていきます。花は根を断たれると枯れてしまいますが、枯れるまで力強く咲く美しさを持っています。一方、木彫も生きていた木を切り、鋭い金属で削るという素材への強いアプローチを経て作られていることから、通ずるものを見いだしました。犬島の岩肌にも採石による荒々しい史跡が残っていますが、その上に静かな生活や柔らかな草木がある様子から、半田はそこに生きる方々のエネルギーを感じました。
「島について考える時、(主要産業であった)銅や石ではない、人の生活こそが、生命としての犬島を象徴するもののように思えた。作品は島の『生』に沿ったものにしたい」と、花や木を扱う木彫の構想が進みました。
木彫の形状や色などは、犬島に咲いている草花をモデルにしています。実際に「C邸」の中に花を持ち込んだり、模型の中に木のブロックを置いたりしながら、作品のイメージを膨らませていきました。
制作は大型のCTスキャンや切削工機を用いた他、VRなどの仮想空間でも同時に進められました。
切削工程では原木を大きく切り分け、パーツごとに寄せ木、着色を施しました。
最後に、パーツに分かれた状態の作品を犬島に運びこみ、現地で細部の仕上げを行いました。配置を検討し、全体のバランスをみながら、さらなる手彫りや着色によって完成に至りました。
この木彫は特定の花ではなく、無名性を含む抽象的な「花」を表現しています。また、木材は収縮を繰り返しながら島の環境になじみ、作品が刻々と変化していくとし、タイトルは「無題(C邸の花)」とつけられました。
本作品はこれからも島のさまざまな環境と呼応しながら、犬島の「生」とともにあり続けていきます。
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