今夏、犬島にてパフォーミングアーツプログラムが始まります。

この夏、ベネッセアートサイト直島の新たな試みとして、「犬島パフォーミングアーツプログラム」が始まります。

犬島は、岡山側の港から南に約2.5km、定期船で10分ほどの距離に浮かぶ、岡山市唯一の有人島。歩いて2時間ほどで1周できる小さな島です。良質な花崗岩(犬島石)の産出で知られ、古くは江戸城、大阪城、岡山城の石垣などの切り出し場となるなど、全国各地で犬島の石が珍重されています。明治時代後期には犬島製錬所が創業され、最盛期には人口約5000人にもおよんだといわれています。しかしながら、銅の価格の大暴落による製錬所の閉鎖と採石業の衰退により、今では人口約50人にまで減少しています。

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犬島では、2002年頃より、大阪を拠点に活動する演劇集団・維新派の公演をはじめ、さまざまな野外演劇公演が行われてきました。舞台となる場所に滞在しながら、一から野外劇場をつくりあげることで知られる維新派の活動は、公演活動が行われる中で犬島の人々との交流を生んできたといわれます。

ベネッセアートサイト直島は、「犬島精錬所美術館」(2008年~)、「犬島『家プロジェクト』」(2010年~)など、犬島ではこれまで主に現代アートを展開してきましたが、より踏み込んだコミュニティとの関係性を模索していく中で、場にことを起こすことで新たな状況を生み出していくパフォーミングアーツの持つ力に着目し、犬島に根付くパフォーミングアーツの流れをくみつつそれを次代へと継続して発展させるべく、昨年度から犬島の演劇公演への助成活動をはじめています。

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2015年度の犬島パフォーミングアーツ助成として採択され、昨年10月に犬島にて公演された「URA-SHIMA」(脚本:角ひろみ、演出:小野寺修二、企画制作:NPO法人アートファーム)

そして今夏、瀬戸内国際芸術祭2016の一環として、夏会期から秋会期にかけて連続的に4つのパフォーミングアーツプロジェクトが行われます。

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肉体の衝突、犬島の自然、鉄物質、多様なメディアが複合し「ぶつかることから始まる」生命の振起活動を体現、創出する、MuDAによる「MuDA 鉄」(公演日:7月29~31日)
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かつての犬島における繁栄の象徴である犬島製錬所の発電所跡を舞台に、身体をとおして犬島の過去・未来、そして新しい世界の形を探求する、Nibrollによる「世界は縮んでしまってある事実だけが残る」(公演日:8月10~13日)
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維新派の舞台音楽監督を30年以上にわたり務める内橋和久が、インドネシアの音楽家たちとここでしか体験できない音の世界を繰り広げる、「犬島サウンドプロジェクト Inuto Imago」(ライブ・ワークショップ開催日:8月22日~9月4日)
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振付家、ダミアン・ジャレと彫刻家、名和晃平により、身体と彫刻、インスタレーションと音楽が一体となり繰り広げられる「VESSEL」(公演日:10月15日)

トップバッターとなるMuDAのテーマである「鉄」は、かつて犬島の繁栄を支えていた銅製錬の過程で、その塵芥として大量に吐き出され、百年経った今でも犬島に物質として残り続けています。

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今年1月に犬島を訪れたMuDAのメンバー。製錬所の当時の様子や今の犬島に至る歴史について、地元の方にヒアリングを行っている

宇宙空間で最も安定する物質と言われる「鉄」。
舞台となる場所には、製錬の痕跡として残された、鉄を含有するカラミ(銅製錬の際に銅にならず残ったもの)が地面一体に広がっています。

「エネルギーは爆発から安定に向かい、再び爆発し安定に向かう。宇宙のリズムとも言うべき衝突運動を繰り返し『鉄』は誕生し続ける。それは森羅万象全てがランダムに存在する膨大なこの宇宙空間に於いても、一つに向かう方向があるということ。すべてが独立しながら一点に向かう。そこではぶつかる衝撃と負荷からのみ、コトは始まり展開する。衝突の瞬間その度に、この存在が、直面するこの世界が、確実に振起し次に向かう。」(MuDA)

MuDAのパフォーマンスは、いかなるエネルギーを犬島にもたらすのか――

ジャンルや制作プロセス、クリエイションの考え方も異なる4つのプロジェクト。
犬島に存在する民俗、風俗、歴史を掘り起し、それをパフォーミングアーツ公演という芸術形式によって再生・創造し、斬新な発想を持って顕在化させることで、どのような新たな価値が生まれるか。そして、瞬間的な事象の積み重なりや、それに関わる人たちの行動、言葉のひとつひとつが、犬島に何をもたらし、いかなる未来につながっていくのか。それらを検証する試みともいえます。

いよいよ今月末より始まる犬島での新たな動き、ぜひご期待ください。

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