犬島パフォーミングアーツプログラム
「犬島サウンドプロジェクト Inuto Imago」
ワークショップレポート

「犬島パフォーミングアーツプログラム」第3弾、内橋和久「犬島サウンドプロジェクト Inuto Imagoイヌト・イマーゴ。島の音に耳を傾け、新たな音楽を生み出すための3つのプロジェクトがスタートしています(内橋和久インタビューはこちら)。本日はその一つ、島の音を発見・観察・構築する「Inuto Imagoワークショップ」をご紹介します。

このワークショップは、参加者が、内橋和久とインドネシアからの音楽家、ルリー・シャバラ/ヴキール・スヤディー(SENYAWA)と共に、11日間犬島に滞在し、犬島の音を発見・観察・構築する試みです。今回の「Inuto Imago」ライブにも毎回出演しているSENYAWAは、ジャワ島・ジョグジャカルタを活動拠点としている実験的音楽デュオ。ジャワの伝統音楽を実験的手法により唯一無二なオリジナル音楽へと昇華させ、西洋音楽と伝統音楽の融合を新しい境地に到達させているとして、高い評価を得ています。
プログラムは、①ダクソフォン(内橋和久)、②ヴォイス(ルリー・シャバラ)、③インスツルメントビルディング(ヴキール・スヤディー)。これら3つのプログラムに、全国から参加者が集い、犬島の音の世界を追求していきます。

長い竹に弦を張った自作の楽器を操る楽器発明家でもあるヴキールがナビゲーターの「インスツルメントビルディングワークショップ」は、楽器をつくるワークショップ。

東京から、夏休みを利用して参加した、ワークショップ参加者の一人に話を聞きました。
「一昨年のSENYAWA来日公演で、ヴキールのライブパフォーマンスを観てファンになりました。ロックやアヴァンギャルドな感じもあるんですが、西洋や日本の文脈には全く存在しない音で、その衝撃はすごかったです。自分は楽器を弾かないので聴く専門ですが、ヴキールの楽器からは、従来の楽器にはない音がします。単純な音ですが、すごく破壊力がある。そしてアコースティックとエレクトリックが混じったような音。私は、この音に心惹かれるものがあって、ちょっとそんな音を出してみたいなと思って、今回参加しました。単純な動機なんです。そして、ヴキールと一緒に楽器をつくれる、滅多にない機会」ときっかけを話します。

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ヴキール・スヤディー(SENYAWA)
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ヴキールと話しながら楽器制作を進めるワークショップ参加者

初日は、まず環境を整えましょうということで制作場所の掃除から開始。それから楽器の材料を探しに島内を散策。
「あるもので何とかするのがヴキールのやり方。例えば穴を開ける道具が無かったんですが、ないならないでいいと言って、他のやり方を探すんです。考えることが大事って。それでも、するすると作ってしまう。しかも音のデザインをしながら。ハリガネだけなんですけど、ヴキールの楽器に似た音が出る。でも、真似してもできないんですよ。同じようにしているつもりなんですけど、ハリガネの回し方、形、大きさ、太さに理由があるんだろうけれども、分からない。彼の経験で、ああいうものがさっと作れるんだと思いますが、なんかきっと理屈があるんでしょうね。だからヴキールに聞きながら、出したい音に近づけていきたいなと思っています」。

ナビゲーターのヴキール・スヤディーにも、今回のワークショップのコンセプトを聞いてみました。

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ワークショップナビゲーターの、ルリー・シャバラ(左)、ヴキール・スヤディー(右)

「参加者に、まず、自身のアイディアでいろいろやってもらいたいと伝えました。とにかく島をよく見て、そこから得たアイディアを楽器作りに繋げていく、あてていく。それはただ単に、ものや物体としてということではないんです。滞在中の犬島が、自分にどういう影響を与えてきているのか、自分はどういう物語を犬島から感じ取っているのかということです。その"物語"をどういうふうに楽器づくりに織り込んでいくことができるかが、今回のポイントであると伝えました。私の希望としては、彼らが今回どんな楽器をつくるかということだけではなく、どのように"物語"からアイディアへとたどり着くのか、この体験を持ち続けて欲しいと思っています。まるで絵画を描くように。
2週間の滞在は、割と長いですが、すごくいい期間だと思うんです。その間、参加者自ら失敗も繰り返しながら、学んでいくことができる――。そんな機会になると感じています」。

ヴォイスワークショップのナビゲーターであるルリー・シャバラは、表現テクニックは違えど、ヴキールの考えに重なる部分があるといいます。

「歌うことを教えるわけではないんです。声で、どのようにその人個人が自分を表現していくのか、ということを追求していくためのワークショップです。
声というのは、単独で存在するのではなく、環境とのやりとりで表現されていくものです。ワークショップでも初日から島のあらゆるところに足を運び、声がどのようにその場所特有の影響を受けるのか、どうインスピレーションを受けるのか、探し回りました。その中でどのような反応が起きて、それが声としてどう表現されていくのかということを追求していくんです。
例えば、仮に静かな部屋に居るとして、そこで叫び声はあげないですよね。対して、騒々しい都会の中にいるとき、そのノイズと張り合うように、声を出していくだろうと思います。周囲の音からインスピレーションを受けるということ――。そこを、私は追求していきます。私たちが、どのように周囲のものと繋がっているか。それを見る。そして聴く。特に、聴くことに重点を置いて教えます。音楽は聴きながら演奏するもの。相手や環境がどうあるかによって、自分の演奏も変わっていく。『あ、この人がこういうことをやっているんだったら、私は低い声で歌おうかな』とか、『だったら、ここで叫び声をあげようかな』と思ったりするんですね。自分とその周囲や環境から自分を切り離すことは、決してできない。だからこそ、聴くことが重要だと思っています」。

そう語るルリーは、犬島をどう読み取っているのか――。

「インドネシアも小さな島が集まっていて、似ているところもあれば違うところもあります。ここにはもう、50人しか住人がいない。でも、この島の歴史にはすごく可能性を感じています。たくさんの物語があって、いろんな人の話があって、日本の物語、日本の近代化の物語がここにも見られるんじゃないかという感じがしました。美術館があって、それによって若い人たちが興味を持って集まるようにはなっている。けれども、それだけではなくて、受け継がれてきた部分も取り入れて提示していくことができたら、ますます面白いんじゃないか。たくさんの可能性があるような気がしています。そして、ここは強調して話しておきたいんですが。どうして、人はもうここに住んでいないのか、それはすごく重要なことのように思います。ここの島を、『犬島』として残すこと。やはり人々の島であり続けるためには、どうしなければいけないのかということを考え、常にそれを覚えていなければならないと、強く感じています。」

彼ら2人、そして10人のワークショップ参加者たちが、犬島滞在の中で何を感じ、犬島をどう読み取り、いかに表現するか。週末、9月4日(日)のInuto Imagoライブ(16:00~)にて明らかにされます。
プロジェクト最終日、ぜひ犬島でそれを確かめてみてください。

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