寄稿「『旅する茶室』を追いかけて」山本憲資

Mondrian
杉本博司 硝子の茶室「聞鳥庵」(筆者撮影)

杉本博司の作品「硝子の茶室『聞鳥庵もんどりあん』」が最初にお披露目されたのは、2014年の建築ビエンナーレにあわせて、イタリア・ヴェネチアでのことであった。画家ピエト・モンドリアンの最も有名な作品『コンポジション』と茶室の構造がシンクロしているのではという杉本さんの気付きから、そう名付けられ、そのときに茶室の中で鳥の鳴き声が聞こえた、というのでこの字が当てられたらしい。

僕は残念ながらヴェネチアでの展示は見にいけてなかったのだが、ここでの数年間の展示を経て、2018年秋のヴェルサイユ宮殿での杉本博司展にあわせ、茶室はフランス・パリ郊外へと移る。宮殿内にあるトリアノン宮というマリー・アントワネットの離れを舞台に行われた杉本さんのインスタレーションの一環で敷地内の池に設置された。こちらは2019年の年明けに実物をみることができた。

そして2020年春、京都の京セラ美術館の大リニューアルの杮落としの杉本博司『瑠璃の浄土』展とともに、この茶室は美術館の庭園、松に囲まれた池に設置された。展覧会のプレビューに僕も伺ったが、この平安神宮の大鳥居のすぐそばで小川治兵衛が手掛けたといわれる立派な庭に独特の存在感を放っていた。杉本展が終わったあとも、しばらく京セラ美術館の庭に設置されていた。

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京都市京セラ美術館 日本庭園での展示風景(筆者撮影)

そのあとこの茶室の最終目的地になったのが、ここ直島だ。その話を聞いて今度はどのように展示されるのか興味が湧いた。そして、この茶室に導かれるように僕は久しぶりに直島を訪問することにした。

直島には杉本博司作品がすでに多数展示されている。杉本博司の建築家としてのデビュー作でもある家プロジェクトの護王神社、建築シリーズや海景、そして松林図をはじめとした代表作の大型作品に加えて、いくつかのインスタレーションが展示されているベネッセハウス パーク棟の地下でも杉本作品を見ることができる。さらにミュージアム棟のレストランから海を臨むと、リアルな水平線と高さを揃えられた海景のシリーズがずらりと並ぶ。

京都市京セラ美術館
杉本博司"タイム・エクスポーズド"(筆者撮影)
タイム・エクスポーズド
杉本博司「五輪塔」(筆者撮影)

さて、聞鳥庵が設置されたのはベネッセハウスのパーク棟の地下のラウンジに面する水場。瀬戸内海を臨むスペースの向こうに、このガラスのキューブが新たに鎮座した。宿泊した部屋からも視界に入り、景色にも馴染んでいるし、主張しすぎないアクセントとして存在感を放っているとも言える。

暮れなずむ空をバックにした茶室も美しい。そしてさらに美しいのが早朝で、朝焼けが水面に反射し、夜明けの海景色を透過するこのガラスのキューブの佇まいは、長い時間をかけてヨーロッパ、京都と旅をしてきた後に、ああ収まるべくしてこの場所に収まったのだなとも思わせるものであった。

かつてラウンジとして使われていたスペースは、杉本博司率いる新素材研究所の手による改装で2022年3月にオープン予定。地下の展示スペースと屋外に設置された聞鳥庵なども合わせて『時の回廊』という名の杉本博司ギャラリーとしてオープンするとのこと。それが完成した暁にはまた観に来ようと思っている。時代が大きく異なる三種の古い木材を素材として家具の彫刻化に取り組むと杉本さんは話していたが、どんな時空を感じることができるスペースになるのか。

あと、せっかくなのでモンドリアンの『コンポジション』が聞鳥庵に対峙するかのようにラウンジスペースに展示されたらそんなに洒落が効いた話はないのにな、とも思ったり。ベネッセと杉本さんならそんな夢のような妄想を実現してくれたところでそこまで驚く話でなかったりもするのだけれど、楽しみにしている。

山本 憲資(やまもと けんすけ)
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店、雑誌編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。アート、音楽、食などへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。

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